指輪から白いモヤがたちこめ、次第にそれは女の子の姿を形作っていく。
その女の子は一瞬微笑みを浮かべ、そのまま霧となって消えていった。
「よかった……」
羽海は安堵した様子で、さっきまで女の子がいた虚空を見つめている。
「浄化の光……?」
私はあの子が常世の世界に還ったのだと理解した。
「……あなた、何者なの?」
私は心の中で浮かんだ答えを押し殺し、羽海に尋ねた。
羽海の口から、答えが聞きたかった。
羽海は私の方へ向き直り、静かに答えを口にした。
「唄の巫女の末裔。そう言えば分かる?」
――やっぱり!
私は期待通りの答えに胸の高鳴りを感じずにはいられなかった。
「やっと……やっと会えた!」
唄の巫女は、付喪神をあるべき世界へ還すことができる唯一の力を持った一族。
数百年前に血が途絶えたと言われていたが、私はずっとその生き残りを探していた。
正直信じていいものか……現実を受け止めきれない。
それでも眼の前で起きた出来事は確か。
この感動を言葉で表す事ができず、私は気付くと羽海に向かって飛びついていた。
「ちょ、ちょっと! くっつかないでよ!」
「ねぇ、どこから来たの? てか今までどこにいたの? 唄の巫女って他にもいるの?」
「うるさいな! ちょっと待って、離れて!」
羽海はめんどくさそうに私を引き剥がそうとする。
「あの、朱璃さん?」
声のする方を見ると、御神殿の外から仁美がこちらを見ていた。
あ、しまった。
喜びのあまりすっかり忘れていた。
「仁美さん、すみません。今そちらに向かいます」
私たちは本殿を出て、仁美の元へ向かう。
「仁美さん、はいこれ!」
私は指輪を仁美に差し出した。
「え、でもこれ、あなたたちで預かるんじゃないの?」
「その予定だったのですが、羽海ちゃんのおかげで大丈夫になりました! もう陌霊化する心配はありません」
「ほんと?」
「だから、この指輪はもう、仁美さんが持っていて大丈夫です! 大切にしてあげてくださいね!」
「……そう。良かった。ほんとに……ありがとう……ありがとう」
仁美は指輪を受け取り、人差し指にはめてしばらく眺めていた。
―――
何度もお礼を言ってくれる仁美を見送ったあと、私と羽海は片付けをして深志神社を後にした。
後から聞いた話だが、仁美は市内のアパートを引き払い、今はおじいさんの家で住み着いていた黒猫と一緒に暮らしているらしい。
この一件以来、シルバーアクセサリーにハマってしまったらしく、ちょくちょくANIERAにも顔を出しているそうだ。
私はまだ会えてないが、今度お店で会えたらシルバーアクセサリーの魅力について語り合いたいと思う。
「さて、一件落着! ってことで帰りますか!」
私は羽海の方を向いてウキウキで話しかける。
「そうね。とりあえず、店長に報告しないと」
「うんっ! 羽海ちゃんにもたくさん聞きたいことあるし!」
「……私は特にないわ」
そうして羽海と私は、ANIERAに向かって歩き出した。
夕暮れの風が、どこか柔らかく吹き抜けていく。
付喪神の想いが、穏やかに溶けていったような気がした。

