エピローグ
カランカラン――。
店のドアを勢いよく開けると、そこには見慣れた髭面のおじさんが座っていた。
「いらっしゃ……なんだ朱璃か。だから店のドアは静かに開けろとあれほど――」
「店長! ちょっとどういうこと? 唄の巫女がいるなんて聞いてないよ!」
私がどれだけ唄の巫女を探していたか……。
店長はわかっていたはずなのに、その事実を隠していたのだ。
これは問い詰めないといけない。
知ってたなら言ってよ。
「時期が来たら話すつもりだったんだよ。話したらどうせすぐ会いに行く! とか言い出すだろお前」
「当たり前でしょ!」
唄の巫女がいるって聞いたら、絶対会いに行く。
「まぁ色々あんのよ。会えたんだからいいでしょ」
「おかえり、羽海」
「ただいま。ちゃんと依頼こなしてきたわよ。約束、忘れてないわよね?」
羽海が真剣な眼差しで店長を見ている。
「あぁ、そこにあるよ」
店長は古着コーナーの方を顎で指し示した。
え? と思って古着コーナーを見ると、すでに羽海はジャケットの前に立っていた。
「は、はや……」
「DTSのハーフジップトラックジャケット、しかも2020年モデル! この時代に出会えるなんて……あぁ、可愛すぎる……」
羽海はジャケットを胸に抱きしめながら、何事かを早口で呟きながら続けていた。
その表情は緩みきっている。
「古着、好きなの?」
私は羽海の方に近づいて尋ねた。
「ひぇ? あ、ええ。それなりに好きよ……変?」
羽海は夢中で私の存在に気づいていなかったらしい。
何とか平静を装うように取り繕っているようだ。
「全然! 私も中町通りのRAMONEって古着屋さんに最近よく行くんだけど、この間Carharttのデトロイトジャケットですっごく可愛いのがあって……」
「もしかして、90sの状態いいやつ?」
羽海が驚いた顔でこちらを覗き込んでいた。
「え、そう! なんでわかるの?」
「それ、昨日私が買っちゃったから……」
羽海は気まずそうに答えた。
「えーーー! あ、でも私レコード買ってお金ないんだった。てか、RAMONE知ってたんだね」
「うん。よく行く」
「えへへ。なんか嬉しいな。私はレコードが好きなんだ」
「そう。レコードも良いわよね」
羽海の表情がパッと明るくなる。
「趣味が合いそうだね、私たち!」
「ええ、そうね」
きっとこの子とは仲良くなれるだろう。
店長の方を見ると、私たちが話しているのを嬉しそうに見つめていて、ちょっと気持ち悪かった。
「これからよろしくね、羽海」
横にいるはずの羽海に話しかけたが、すでにその場所におらず、鏡の前でトラックジャケットを体に当ててうっとりしていた。
羽海となら、夢が叶うかもしれない。
私は期待に胸を膨らませながら、楽しそうな羽海を眺めていた。

