「……お洒落な子だったなぁ」
同い年くらいだろうか。ずいぶん不思議な雰囲気をまとっていた気がする。
若い子らしくないクラシックなファッションをしていたせいなのか、整った顔立ちのせいなのか……。
そんなことを考えていると、奥から店長のため息が聞こえ、私は我に返った。
「あ、そうだ! 店長、新しいの入っている?」
「あぁ、ちょうどさっき入荷してそこに……」
店長は親指でクイっと奥の方を指さした。
「本当? やった! 早く見せて!」
そこには古い段ボールが一箱、段ボールにはマジックでアナログレコードと書いてある。
「わぁ〜最高! ねぇ、もう中見て良い?」
「まだ値付けしてないんだが……まぁいいか」
「へへへ、やったね!」
今日は週に一度のアナログレコード入荷日!
毎週この日を楽しみに生きていると言っても過言ではない。
「おー、大漁大漁♪」
たくさんのお宝達を眺める。
この瞬間がたまらなく楽しい。
「わーこれ、なごり雪のアナログレコードだ! あ、こっちは赤いスイートピー! すごーい! 実物、初めて見たかも……」
掴んでいたレコードを箱から引き出して、まじまじと眺める。
この人たちがヒットチャートを席巻していた時代もあったんだよな~。
「……お前、本当に二十代か?」
「は? 店長、さすがに失礼すぎ……」
「いや、さすがに渋すぎだろ……今時の子はミラリスとかそういうのを聴くんだよ」
「あぁ〜そういえば来る時も高校生たちが騒いでたっけ。あ、こっちは中森明菜だ!」
私はこの時代を知らないけど、もし生まれ変われるなら、ちょっと覗いてみたい。
引き出したレコードたちをひとしきり眺めてから、丁寧に元の箱に戻した。
今どき、私のようにレコードが好きな人は珍しい。
ヒットチャートはミラリスのようなスキャンダルのないAIアーティストだらけだし、人間の歌手はほとんどいない。
それでも、私は人が作る音楽が好き。
時代を感じる音だったり、歴史を感じるリリックだったり……。
聴くだけでその〝時〟が思い浮かぶような瞬間が大好きだ。
たまーに「なんだこりゃ?」って曲もあったりして、それもまた一つの楽しみ。
そんなことを思いながら、さらにお宝を漁っていると見覚えのあるジャケットに目が留まった。
「え……これアリーヤのファーストアルバムじゃない?」
歌姫アリーヤのデビューアルバムにして至高の一枚「Age Ain’t Nothing But A Number」しかもこのジャケットはなかなかお目にかかれないEU限定のレア盤だ。
――ほしい。
「…………店長」
「高いぞ」
察していたらしい。
店長は私の言葉を待たずに言った。
「そこをなんとか! ツケで……」
手の平を合わせて頭の上に、懇願のポーズを取る。
「ダメに決まってるだろ。お前、この前のだって、まだ払ってないんだからな?」
「いいじゃん! 店長のケチ! どうせ、この時代にレコード買う人なんて私くらいしかいないでしょ!」
「だったらなおさらだろ! 買うなら金を払え! 店を潰す気か!」
「ちょっと! 人聞き悪い! 払わないとは言ってないでしょ!」
店長が正論を言ってくる。だからといって、ここで引くわけにはいかなかった。
なぜなら、私には欲しい冬服がある。
でも店長、レコードを買う人が私しかいないことは、否定しないんだね?
「ねぇーてんちょー。私、依頼とかいっぱい頑張るからぁ~」
「……そもそもお前は依頼受けすぎなんだよ」
店長がやれやれといった様子でこちらを見る。
「前回の分も、今回の分も、次の依頼料から引いておくからな」
いつの間にか前回のツケも引かれることになってしまった。
どうやら冬服は諦めるしかなさそうだ。悲しい。
「……仕方ない。それで手を打ちましょう。」
「なんでお前が偉そうなんだよ……」
店長が呆れたように呟いた。
私は気持ちを切り替えてレコードを見る。
状態もかなり良い。
思わずニヤついてしまうのがわかる。
久しぶりのお宝をしばらく眺めていると、店長が話しかけてきた。
「そういえば、前回の。奥の倉庫で眠っているよ。この後、持っていってやれ」
「そう、よかった。本当はすぐにでも還してあげたいんだけどね……。このあと行ってくるよ」
祓わずに済んでほんとに良かった。
「……朱璃、その事なんだが」
店長が何か言おうとした瞬間、電話が鳴り響いた。
「はい、リユースショップANIERAです」
店長が、普段と変わらぬ落ち着いた声色で電話に出る。
片手を軽く上げ「スマン」とジェスチャーをしてくる。
私は「了解」とばかりに小さく頷き、視線を店内へと巡らせた。
どれも今の時代には似つかわしくない物ばかりが並んでいる。
年代物のフィギュアやぬいぐるみ、当時流行った古着、カセットテープ、一時期推し活で大流行したというアクリルのキーホルダー、缶バッチまである。
「やっぱり落ち着くな〜この店は」
目の前にあったミニチュアのフィギュアを撫でる。
「可愛い」
うっとりとフィギュアを眺めていると、奥から店長の声が聞こえてきた。
「朱璃、よかったな、仕事だ」
どうやら新しい仕事の電話だったらしい。
さっそくレコード代を稼ぐ機会に恵まれたようだ。
「おっと、この天才祈祷師、安野朱璃の出番ですかな?」
私は着ていたジャケットの腕をまくって恭しく意欲を見せる。
「バカ言ってないで、早く支度しろ」
「はーい、店長。奥の部屋、借りるよ」
――長い年月、人の想いや信仰に触れたモノに宿った〝魂〟。
人はそれを「付喪神」と呼んだ。
善意に触れた付喪神は幸福をもたらし、悪意に触れた付喪神は厄災をもたらす。
これはそんな付喪神と向き合い続けた「祈祷師」たちの物語。

