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第3話 / DIGGIN’ THE SOUL

一章〜邂逅(かいこう)

 深志ふかし神社は「天神様てんじんさま」と呼ばれ、地元で親しまれている。
 依頼人の家は、そこから程近い閑静かんせいな住宅街にあった。
 数ヶ月前、そこで暮らしていたおじいさんが亡くなったという。
 お孫さんが遺品の整理に訪れたところ、不可思議な現象が起き始めたらしい。
 突然、花瓶や蛍光灯が割れたり、地震でも無いのに家が揺れ動いたり――。
 遺品整理を進めることができず、周りからの勧めで深志神社へおはらいに行った結果、ANIERAを紹介された。というのが今回の依頼に至る顛末てんまつだった。

「老後の一人暮らしって寂しいのかな? 私はレコードに囲まれてのんびり出来るならアリだな~。ぐふふ」
 
 これだけの家なら壁にコレクションのレコードを飾ることだって出来るだろう。
 そう思いながら、門をくぐり、庭を歩く。

「本当に広い……これ全部この人の土地なのかな」

 庭はぱっと見でも百坪くらいはありそうな広さで、大きな池や庭石にわいしが置かれている。
 その奥に立派な蔵造りの屋敷が構えていた。
 今は雑草に覆われてしまっているが、おそらく昔は立派な庭園ていえんだったのだろうことがわかる。
 私は玄関のインターホンを押した。

「はーい」

 奥の方から女性の声が聞こえ、しばらく待つとガラガラとドアが開いた。

「えっと、もしかして」

 玄関から現れたのは、ショートヘアを柔らかく茶色に染めた、今どきの可愛らしい女性だった。流行のAR(拡張現実)パンツ に、腰丈こしたけのニットを合わせた軽やかなスタイルがよく似合っている。

 ARパンツは、2045年頃に発売されたAR技術を活用した最新ファッションだ。
 スマートフォンに変わって登場した次世代ウェアラブルデバイス「Skylim(スカイリム)」に専用アプリをインストールすることで、その日の気分にあわせてパンツの模様もよう――エフェクトを自由に切り替えることが出来る。

 十代から二十代を中心に爆発的な人気をほこり、限定エフェクトは相場そうばの十倍以上で取引されているらしい。
 私はそもそもSkylimを持っていない。SkylimもARパンツも目がチカチカするから無理! と友達に話したら、おばあちゃんかよ! とつっこまれてしまった。

 うら若き乙女おとめに向かって酷い事を言うものだ。

「ANIERAの依頼で派遣はけんされた祈祷師きとうし安野朱璃あんのあかりです」
「そう、あなたが……私は二村仁美にむらひとみ。よろしくね」
「……おうちにいて大丈夫だったんですか?」
「どういう意味?」
「あ、えっと、深い意味はないんですけど、他の依頼者さんとかは怖がって家に居たがらない事も多いので……」
「平気よ、私はそういうのを信じてないもの」
「そ、そういうの……?」
「霊とかオカルトとか。今回は周りに言われて仕方なく連絡したけど……」
「は、はは」
「それより、祈祷師と聞いた時はもっと年寄りが来ると思ったんだけど、あなたいくつ?本当に大丈夫なのよね?」
「お任せください! これでも一応、天才祈祷師としてやらせて頂いております」
「……余計に不安なんだけど……まぁいいわ。とりあえず入って」
「はい! お邪魔しま〜す」

 不安そうな顔をした仁美を横目に、私はくつを脱いで家に上がった。
 屋敷は平屋作ひらやづくりで天井も高く、中に入るとより一層広く感じる。
 玄関から真っ直ぐ伸びる廊下は長すぎて奥までよく見えない。
 まるでどこか別世界に繋がっているように思えた。

「庭もですけど、本当に立派なお屋敷ですね」
「そう? 広いだけよ」

 仁美は足早に廊下の奥へと進んでいく。
 私はそそくさと脱いだ靴を整え、仁美の後を追った。
 薄暗い長い廊下の突き当りを右に曲がる。
 そこには両引き戸の部屋があった。

「ここよ」

 仁美が障子戸しょうじどを開けると、二十畳ほどの畳部屋たたみへやが広がっていた。
 おそらく、かつては仏間ぶつまだったのだろう。
 古びた丸机まるつくえと座布団、その奥には仏壇ぶつだん化粧箪笥けしょうたんすが並んでいる。
 仁美が半信半疑といった表情で、ゆっくりと私の方を振り返った。

「どう? 何かわかる?」
「まだなんとも……ちょっと詳しく調べさせてください」
「……何も無いと思うわよ」

 私は畳部屋に入り、改めてあたりを見渡した。
 目に見えて不自然な様子はない。
 目をつむり、呼吸に意識を集中させた。
 徐々に周りから音が消えていく。

 ――どこにいるの? おしえて。

 すると、暗い視界の中に淡い光がぽつりと灯る。
 その光を放っていたのは、部屋の隅で誰かを待つように佇む、化粧箪笥けしょうたんすだった。

「仁美さん、この化粧箪笥、開けても良いですか?」
「え? あぁ、どうぞ」

 私は慎重に一番上の引き出しを開ける。
 中には年代物のネックレスが入っていた。

「あ、これ! VAN CLEEF & ARPELS のネックレス! 年代物ですね~かわいい!」

 口走ったあと、ハッとして仁美を見る。
 好きなものを見つけて、つい興奮してしまった。

「あなた、若いのに良い趣味してるわね。いまどき、シルバーのアクセサリーなんて」
「は、はい! それで友達とも話合わなくって、へへ」
「よかったらあげるわよ」

 仁美はそう言った後、指に付けている最新のデジタルアクセサリーの指輪を見せつけてきた。

「良いでしょ? 先月の給料で買ったティファニーの新作。その日の気分に合わせて色を変えられるの」

 指輪の中で青と水色のグラデーションになった水のような光が、彼女のARパンツと連動してゆらゆらと揺れている。
 普通の宝石や装飾品ではありえない輝きを宿していた。
 私は「可愛いですね」とだけ言って、二段目、三段目と引き出しを開けていく。
 中には他にもアクセサリーや化粧道具が入っていた。どれも丁寧に保管されていて、大切にされていたことがわかる。だが、どれも変わった気配は感じない。

 一番下の引き出しに手をかけた瞬間、指先からピリッという確かな気配を感じた。
 ここか……と、改めてゆっくりと引き出しを開けると、年代物の青い指輪ケースが入っていた。

「これですね」

 私はその指輪ケースを取り出し、仁美に見せる。

「なにそれ? 指輪ケース?」
「はい、これが今回の原因です」

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この記事を書いた人

長野県松本市を拠点に活動する2人組の作家です。

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