第11話 / DIGGIN’THE SOUL

 一章~幽想ゆうそう

 松本市・中町通りをイオンモール方面に向かって歩いていくと見えてくる。
 ファッションスポット「RAMONE」。
 ARファッションで〝古着風〟に見せるのが主流のなか、今では珍しい〝本物の古着屋〟だ。
 白い壁に黒格子くろこうしの外観は――まるで蔵のようなたたずまい。
 けれど、二階へとせり出したガラス張りの空間が、どこか現代的でもある。
 窓際には古着たちが整然と吊るされていて、ヴィンテージTシャツのグラフィックが外からでもよく見える。
 街並みからは少しだけ浮いているようで、妙にしっくりと馴染んでいた。
 いつものように二階へと続く階段を上り、OPENの札がかけられた扉を開ける。
 どうやら営業中のようだが、店内にお客さんはいないようだった。
 陽の光がたっぷりと差し込み、壁にかけられたバンドTシャツやアートポスターの色を柔らかく際立たせている。
 床は今時珍しい木製で、歩くたびにキュッと鳴る音が、店内にやさしく残る。
 ラックにはTシャツがずらりと並び、壁際には靴やカセットテープ、古いファッション誌が雑然と積まれている。

「やっぱり好きだな……」
「朱璃ちゃん、いらっしゃい」

 私はその声に目線を奥へと向けた。
 今日のマスターは dj honda のキャップをかぶり、Tシャツにハーフパンツという軽快な装い。抜け感のある雰囲気がよく 似合っている。

「マスター、こんにちは。今日もオシャレですね!」
「はは、ありがとう。朱璃ちゃんに似合いそうなブルゾンが入ってるよ」
「え? ほんと!?」

 そのまま見せて見せてとまくし立てそうになったが、今日来た目的を思い出す。

「あ、でもその前に……」
「ごめん、ごめん、そうだった。うん、依頼の方、頼むよ」

 マスターは私好みの古着を見つけるのが抜群にうまい。
 紹介してくれる服はほとんどがストライクで、私はいつも財布と相談する羽目になっている。
 RAMONEからの依頼料は、そのまま購入資金になっている気さえする。

「はーい、この天才祈祷師、安野朱璃におまかせでーす」
「ハハハ、いつもありがとうね」

 私はちょっとだけ胸を張り、誇らしげに笑った。

「これなんだけど……オオゴトになる前に対処したくてね。利正りせいさんに頼んだんだ」

 利世さんとはANIERAの藤間店長のこと。どうやらマスターとは昔からの知り合いらしく、そう呼んでいるらしい。

「あ、これですね? 了解です。少々お待ちを……」

 私は店の床にぽつんと置かれたテレビデオに目をやる。
 今やほとんど見かけない、テレビとビデオが一体化したレトロ家電。
 VHSという記録メディアが最盛期さいせいきのころの定番ハードだったらしい。
 ブラウン管の画面には、ブルーのタイトル画面が静かに揺れている。
 DEEP SKY――懐かしさを感じさせる書体に、見慣れない海獣のシルエット。
 その周囲を囲むように、VHSの山が築かれている。
 アクション映画、B級ホラー、ドキュメンタリー……。
 色褪いろあせたラベルたちが、雑然ざつぜんと詰め込まれていた。
 山の中に、ひときわ異質な存在感を放つビデオが目に留まる。
 手を伸ばした瞬間、指先にひやりとした感触が走った。
 見た目は何の変哲もないのに、中に何かがいる――そんな確かな気配が、じわりと伝わってくる。

「これだね。けど……」

 いつもの依頼よりもずいぶん力が弱い。
 よく店に来ているはずの私が気付かないわけだ。と内心納得する。
 そう考えていると店の扉が開く音が聞こえた。

「お、まいど、いらっしゃい」
「ども、マスター」

 そのやりとりからして、どうやら常連客のようだ。
 ふと聞き覚えのある声のような気がして、私は反射的に振り向いた。

「あっ……!」
「え……?」

 そこにいたのは、どこか気まずそうな顔をした羽海。
 偶然の再会に私も驚きを隠せずにいた。

「なんで、あんたが」
「なんで、羽海が」

 思わず、声が揃ってしまう。
 羽海がマスターの方へ視線を向けたが、彼はタイミングよくかかってきた電話に出ており、店内には気まずい沈黙と受話器 越しの声だけが響いていた。
 羽海の視線が私の手元のモノへと落ちる。

「あなた、それ……そういうこと」
「あ、うん、そうなの。ここの依頼できたんだ」
「そう……」

 羽海はそれだけ呟き、目をそらした。
 ANIERAでの一件が、まだ尾を引いているのだろう。そうだ。

「羽海、これ、封印するの手伝ってくれない?」
「え……いや、それは……」
「羽海が不安に思うことは何となくだけどわかる。けど、どうしても必要なの」
「でも私は……」

 羽海は言葉に詰まり、何かをかみしめるようにうつむいていた。
 何か思うところがあるのだろう。
 でも、それでも私には必要だから。

「私は浄化の力を使えないの。ただ封印するだけ。本当の意味では何も救えない。だから力を貸してほしいの」
「…………」
「それに、それだけじゃなくて。この前、羽海が歌っているのを見て……素敵だなって思ったの。だから……」
「え……」

 羽海が顔を上げ、目が合った。不安がにじむまなざし。
 だから……その後の言葉が続かない。
 その先の言葉を探していた、その時だった。

「朱璃ちゃん、それと羽海ちゃん、ちょっといいかい?」
「え?」
「はい?」

 マスターに呼ばれ振り向くと、電話を終え、受話器をおいたところだった。

「二人に伝言だそうだ」

 コホンと小さく咳払いをして、口調を変えて話し始めた。

「えー、今回の依頼は二人で解決するように。羽海、報酬として、スペシャルなモノ、用意してもらったから、マスターに見せてもらいなさい。今回限りでもいいから絶対やるように」
「は?」
「え?」

 内容からして、おそらく店長のモノマネのつもりらしい。
 ……が、残念ながら恐ろしく似ていなかった。

「で、その〝スペシャルなモノ〟が、これだ」
「ラングラー 111MJ!! しかもこの色落ち……完璧すぎる……」

 羽海の目がぱっと輝く。先ほどまでの不安そうな雰囲気はどこへやら。
 そんな私の視線に気づいたのか、バツの悪そうな顔で目をそらす。
 しかしまたマスターの持つ〝ソレ〟に視線を奪われる。

「……」
「…………」

 頭を抱え、苦虫を噛み潰したような顔で悩み始める羽海。
 なんだか別の意味で気の毒になってきた……。
 そして、ふいに何かを吹っ切るように首を振り、息を整えると言った。

「こ、今回だけ……」

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この記事を書いた人

長野県松本市を拠点に活動する2人組の作家です。

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