第30話 / DIGGIN’THE SOUL

 その後、ホテルスタッフの誘導のもと、同窓会は別会場で行われることとなった。
 生徒会長の進行と先生方による余興から始まり――なぜかエアバンドだった――会場も再び賑やかさを取り戻している。

「いや~、でも私たちの代ってこういうこと、多いよね~」
「そうそう、もう慣れっこというかさ」
「咲たちも怪我はなかったみたいだし」

 テーブルのあちこちからそんな声が聞こえてきていた。
 美久が咲と優希くんの様子を見に医務室へ行って、十五分あまり。
 ついていこうとしたのだが、何かあったら連絡するから、と置いてかれてしまった。
 まだかな……と、私は耳を傾けながら出入り口の方を見る。その時だった。

「ガフッ」

 急に口に何かを突っ込まれ、山賊焼き特有のにんにくと生姜、醤油の風味が広がる。
 犯人は美久だった。

「ほい、元気出せ~。ふたりも大丈夫だったぞ~」

 と、その後ろには咲と優希くん。

「やっほー、朱璃、ただいま~~」
「こんにちは。お久しぶりです」

 二人の元気そうな様子に、私は思わず大きく息を吐いた。

「ふたりとも……良かった。本当に良かった」

 こみ上げてくる涙を気にせず、咲を抱きしめる。

「もぉ朱璃、おおげさだよ~。あんなの当たってもコブになるくらいだし」
「僕がおおげさに庇ってコケたから、大騒ぎになってしまったよね……」

 そう言う優希くんに私は首をふった。

「そんなことない。万一があったら大変なんだから」
「そうそう。それに優希くん、咲を護ろうとしたの、すっごくカッコよかったぞ~」

 美久が肘で優希くんを小突き、咲が顔を真っ赤にして美久を叩く。
 そんな二人を見て、優希くんはやれやれと微笑んでいた。
 良かった。本当に元気そうだ。

「それにしても優希くん。私たちのこと、覚えてた?」
「もちろん。あの頃はちょっと恥ずかしくて、あまり話せなかったけど……咲からみんなの話は、たくさん聞いてたよ」
「ちょっと咲! 何話したのよ」
「えー、忘れたー」

 美久が身を乗り出して詰め寄る。

「なんだか懐かしいね~」

 感傷に浸りそうになる空気をぶち破ったのはやはり咲だった。

「さーて、さっき食べそこねた分、取り返さなきゃ!」

 綺麗なドレス姿にあまりに不似合いな、腕まくりでもしそうな動きで新しいビュッフェを物色し始める。

「ねぇ咲、今でもそんなに食い意地張ってるの?」
「当たり前じゃん! 食べ放題なんだから食べられるだけ食べなきゃ損でしょ!」

 いつの間にか頬をぱんぱんに膨らませながら答える咲。
 優希くんはあきれ顔を浮かべていたが、口元がほんのり緩んでいるのを私は見逃さなかった。

 会場は笑い声と歓声に包まれて、さっきの出来事がウソのように賑やかさを取り戻していた。
 二時間ほどでプログラムも終わり、生徒会長の「今日はありがとうございました!」という挨拶を合図に、会場は少しずつ解散モードに入る。

「咲たちはこのあとどうするの? 私たちはカラオケにも行こうかなって話してるけど」

 美久がそう声をかけていた。クラスメイト何人かで行く予定らしい。
 カラオケ久しぶりだな〜。今日は宇多田ヒカルの「DISTANCE」を歌おう。

「優希、どうする?」

 咲が振り返って優希くんに声をかける。

「咲、せっかくだし行ってきなよ。俺は……遠慮しとく」
「そう? それじゃ私も……」

 その言葉に、私は少しだけ眉を寄せた。
 優希くんの表情。さっきの言葉。なにか引っかかる。

「咲、ちょっといい?」

 私はそっと近づいて、彼女にだけ聞こえる声で話しかけた。

「え……なに?」
「また何か……困ったことがあったらココに電話して」
「どういうこと?」
「今日みたいなこと、初めてじゃないんだよね?」

 その言葉に咲の表情が固まった。やっぱり。

「もしかしたら、咲に力を貸してくれるかもしれない」

 そう言って、私はANIERAの連絡先を書いたメモをそっと手渡した。

「うん……また何かあったら……」

 咲は戸惑いながらも、静かにうなずいた。

「うーん、私も、今日はここで」

 私がそう言うと、美久も「じゃあまた今度ね」と笑った。

「うん。咲も、優希くんも……。また今度カラオケいこ!」

 優希くんは少し申し訳なさそうに笑って、私たちに頭を下げた。

「……みんな、ごめんね」
「全然! 気にしないで。結婚式、楽しみにしてるから」
「ありがとう。じゃあ、私たちはこれで……」
「うん、またね。優希くんも」
「ああ……本当にありがとう。また」

 そう言って二人は手を振って会場を後にした。
 電話があったのは、それから五日後のことだった。
 仕事を終え、店を閉めようとしていた時。
 鳴り響いたのは店の電話ではなく、私のスマホだった。
 その先から聞こえてきたのは、咲ではなく優希くんの声。

「朱璃さん、あの……」

 その声には焦りが浮かんでいた。
 いつもの穏やかな彼らしくない、焦りと混乱が混ざり合った声。

「咲が……咲がっ……!」

 途切れた言葉の向こうで、
 何かが崩れるような音が聞こえた気がした。

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この記事を書いた人

長野県松本市を拠点に活動する2人組の作家です。

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