第26話 / DIGGIN’THE SOUL

 一章~懐縁かいえん

 同窓会当日。
 散々悩んだ挙げ句、美久から後追いの電話が来て観念した私は、夕方からの店番を羽海に代わってもらい、ANIERAから直接行くことにしたのだった。

「そういえば今日ってどこいくの?」

 ANIERAのロゴ入りエプロンを身につけた羽海がそう聞いてきた。
 エプロン姿に初めこそ怪訝な顔をしていた彼女だったが、おそらく自身が思っている以上に馴染んでいる。

「同窓会だよ。高校の同級生が久々に集まるの」
「そう、高校の……」
「ほら、この前イオンで会った美久。あの後、連絡あってさ。松本にいるなら絶対来てって」
「急に店番代わってってそういうこと……」
「うん、代わってくれて助かった。ほんとありがと」
「大丈夫よ。それに……」
「ん? それに?」
「なんでもないわ。けど、そんな恰好でいいの?」
「え? どういうこと?」

 いつものスタジャンスタイルに、ジーンズとローファーで少し堅めのスタイル。
 何を心配しているのかわからず首を傾げる私に、羽海は小さく息を吐いた。

「だって、同窓会なんでしょ? そういうのって着飾っていくものじゃないの?」
「え~、ただ高校の友だちに会うだけなのに、そんなことしないって」

 軽く笑って返すと、羽海がポツリと何かをつぶやいた。

「と……ちね」

 そんなふうに聞こえた気がしたが、声が小さすぎてよく聞き取れない。

「ん? 今なんて?」

 私が聞き返すと、羽海はそそくさとレジの奥の方へと引っ込んでしまった。

「いってらっしゃい」
「? それじゃ行ってきまーっす」

 気合を入れ直すように意識的に明るい声でそう言い残し、同窓会へと向かった。

 ***

 ホテル・ブエナビスタ。
 駅前にそびえるガラス張りの高層ホテルは、松本では珍しい建物だ。
 和食・フレンチ・中華といったレストランの他、宴会場やウェディング施設も兼ね備えている。
 時間ギリギリに到着した私は案内に従って宴会場「メディアーノ」に向かった。
 シャンデリアの柔らかな光が天井を照らし、スピーカーから流れるジャズに、話し声や笑い声がゆるく混ざり合っている。

「お、朱璃〜! ギリギリだぞ~!」

 入口で受付をしていたのは淡いブルーのワンピースを着た美久。
 あの後知ったのだが、今回の同窓会の運営メンバーだったらしい。

「あはは、ごめんごめん。でも、あれだけ誘われたら、そりゃ来るよ~」
「ん~、さっすが、親友♪ はいこれ。今日のお題目だいもく。抽選券にもなってるから」

 美久がSkylimスカイリムを操作すると、指先に合わせて空中に要項ようこうが表示され、転送エフェクトとともに消える。
 次の瞬間、カバンの中のスマホが震えた。

「これ、毎回思うけど……どうなってんの?」
「仕組みなんて知らないよ。とにかく不便だから朱璃も早く買って」
「いや~~……私、スマホ持ってるだけでも偉いと思うんだけど?」

 そう言いながら、店長に譲ってもらった古いスマホを取り出すと、画面には今日の開催要項やメニュー、抽選番号が表示されていた。

「朱璃、通知とか全然見てないでしょ。いつも私が連絡係なんだから!」
「えへへ、ごめんごめん」

 いつもの小言が始まりそうな気配に、私はさっと話題を変えた。

「それにしてもすごいね、今日って何人くらいきてるの?」
「えーっと二百人くらいかな? 生徒会長が幹事で、全クラス合同だって」
「へぇ……!」

 予想を遥かに上回る大規模なもよおしのようだった。
 会場内では同級生たちが着飾って思い思いに話している。

「……なんか、みんな気合い入ってるね」

 カジュアルすぎたかも……と、上着の袖を軽く引っぱった。
 羽海が心配していたのはこのことか。……まあ、ドレスコードはなかったし。

「美久〜! おつかれ~!」

 そう近づいてきたのは聞き覚えのある声だった。

「あれ? 咲?」
「え、うそ……朱璃!? 久しぶり~っ!」

 咲は黄色いドレスに身を包み、頭にはクラシカルな花を模した髪飾りをつけていた。
 元気いっぱいの彼女にはよく似合っているけれど、鮮やかな黄色は少し派手に映る。
 ――私があまりにカジュアルな服装をしているからかもしれないけど……。
 そんな彼女が、昔と同じ笑顔で両手を広げ、まっすぐこちらへ駆け寄ってきた。

「やっぱり咲だ! 会いたかったよ〜〜!」

 私も手を拡げ、ぎゅっと抱き合う。
 あの頃の昼休みの時間がふわっと蘇った気がした。

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この記事を書いた人

長野県松本市を拠点に活動する2人組の作家です。

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