一章~懐縁~
同窓会当日。
散々悩んだ挙げ句、美久から後追いの電話が来て観念した私は、夕方からの店番を羽海に代わってもらい、ANIERAから直接行くことにしたのだった。
「そういえば今日ってどこいくの?」
ANIERAのロゴ入りエプロンを身につけた羽海がそう聞いてきた。
エプロン姿に初めこそ怪訝な顔をしていた彼女だったが、おそらく自身が思っている以上に馴染んでいる。
「同窓会だよ。高校の同級生が久々に集まるの」
「そう、高校の……」
「ほら、この前イオンで会った美久。あの後、連絡あってさ。松本にいるなら絶対来てって」
「急に店番代わってってそういうこと……」
「うん、代わってくれて助かった。ほんとありがと」
「大丈夫よ。それに……」
「ん? それに?」
「なんでもないわ。けど、そんな恰好でいいの?」
「え? どういうこと?」
いつものスタジャンスタイルに、ジーンズとローファーで少し堅めのスタイル。
何を心配しているのかわからず首を傾げる私に、羽海は小さく息を吐いた。
「だって、同窓会なんでしょ? そういうのって着飾っていくものじゃないの?」
「え~、ただ高校の友だちに会うだけなのに、そんなことしないって」
軽く笑って返すと、羽海がポツリと何かをつぶやいた。
「と……ちね」
そんなふうに聞こえた気がしたが、声が小さすぎてよく聞き取れない。
「ん? 今なんて?」
私が聞き返すと、羽海はそそくさとレジの奥の方へと引っ込んでしまった。
「いってらっしゃい」
「? それじゃ行ってきまーっす」
気合を入れ直すように意識的に明るい声でそう言い残し、同窓会へと向かった。
***
ホテル・ブエナビスタ。
駅前にそびえるガラス張りの高層ホテルは、松本では珍しい建物だ。
和食・フレンチ・中華といったレストランの他、宴会場やウェディング施設も兼ね備えている。
時間ギリギリに到着した私は案内に従って宴会場「メディアーノ」に向かった。
シャンデリアの柔らかな光が天井を照らし、スピーカーから流れるジャズに、話し声や笑い声がゆるく混ざり合っている。
「お、朱璃〜! ギリギリだぞ~!」
入口で受付をしていたのは淡いブルーのワンピースを着た美久。
あの後知ったのだが、今回の同窓会の運営メンバーだったらしい。
「あはは、ごめんごめん。でも、あれだけ誘われたら、そりゃ来るよ~」
「ん~、さっすが、親友♪ はいこれ。今日のお題目。抽選券にもなってるから」
美久がSkylimを操作すると、指先に合わせて空中に要項が表示され、転送エフェクトとともに消える。
次の瞬間、カバンの中のスマホが震えた。
「これ、毎回思うけど……どうなってんの?」
「仕組みなんて知らないよ。とにかく不便だから朱璃も早く買って」
「いや~~……私、スマホ持ってるだけでも偉いと思うんだけど?」
そう言いながら、店長に譲ってもらった古いスマホを取り出すと、画面には今日の開催要項やメニュー、抽選番号が表示されていた。
「朱璃、通知とか全然見てないでしょ。いつも私が連絡係なんだから!」
「えへへ、ごめんごめん」
いつもの小言が始まりそうな気配に、私はさっと話題を変えた。
「それにしてもすごいね、今日って何人くらいきてるの?」
「えーっと二百人くらいかな? 生徒会長が幹事で、全クラス合同だって」
「へぇ……!」
予想を遥かに上回る大規模な催しのようだった。
会場内では同級生たちが着飾って思い思いに話している。
「……なんか、みんな気合い入ってるね」
カジュアルすぎたかも……と、上着の袖を軽く引っぱった。
羽海が心配していたのはこのことか。……まあ、ドレスコードはなかったし。
「美久〜! おつかれ~!」
そう近づいてきたのは聞き覚えのある声だった。
「あれ? 咲?」
「え、うそ……朱璃!? 久しぶり~っ!」
咲は黄色いドレスに身を包み、頭にはクラシカルな花を模した髪飾りをつけていた。
元気いっぱいの彼女にはよく似合っているけれど、鮮やかな黄色は少し派手に映る。
――私があまりにカジュアルな服装をしているからかもしれないけど……。
そんな彼女が、昔と同じ笑顔で両手を広げ、まっすぐこちらへ駆け寄ってきた。
「やっぱり咲だ! 会いたかったよ〜〜!」
私も手を拡げ、ぎゅっと抱き合う。
あの頃の昼休みの時間がふわっと蘇った気がした。

