第24話(1) / DIGGIN’THE SOUL

 エピローグ1

「大丈夫ですよ、安心して」

 あがたの森音楽祭の日の夜。
 藤間ふじま は今ではもう博物館でしか見ないような黒電話を手に話していた。

「あの子は、そんなに弱くないですよ」

 そう言って、そっと煙草を灰皿に置く。
 紫煙しえん が一本、ゆらゆらと立ち上り、細く揺れながら天井へと昇っていく。

「参ったな……それを言われてしまうとどうにも」

 見えもしない相手に向けて、苦笑するように頭を抱える。
 だがその瞳には、不安や焦りの色はなかった。
 ただ、静かに立ち上る煙を見つめている。

「わかりました。なるべくそうしますから」

 電話口で交わすのは、何度も繰り返してきたやり取り。
 今回は少し目立ちすぎてしまった。それも仕方のないことだ。

「それに……もし何かあったときは、私がなんとかしますんで」

 最後にそう告げて受話器を置く。
 カチリと音を立て、通話が切れた。
 藤間は再び煙草を口にくわえ、火を入れる。
 ふぅーっと吐き出した煙が、淡い白の筋を作り、夜の空気に溶けていく。
 窓の外には満月。銀の光が夜の山々を照らしていた。

「……何かあったときは、ね」

 紫煙は窓辺を越えて夜空へ。
 ゆらゆらと揺れるそれが、月と山の輪郭を淡く霞ませていった。

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この記事を書いた人

長野県松本市を拠点に活動する2人組の作家です。

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