Skylim。
スマートフォンに変わって世界中の生活を変えたARデバイス。
柚木が勤める会社の看板商品だ。
今や持っていない人はいないと言われているが、私は持っていない。
「相性診断アプリ?」
「そう。自分との相性を、AIが出してくれるのよ。恋愛とか、友達とか、進路とか……」
「占いみたいなやつ?」
「違う。Skylimに蓄積されたパーソナルデータを基に診断される、もっと精度が高いものよ。だから、みんな使っているの」
そういえば、高校生の時にみんながやっていたような気もする。
誰々(だれだれ)と相性が良かったとか。咲と勇希くんも相性診断良かったって話していた。
「そうなんだ……えっと琴乃ちゃん、大丈夫? なんかちょっと、変だよ?」
私の言葉を無視して、琴乃は続ける。
「私も、悠馬との相性を診断してみたんだっ! ……そしたら、そしたらね……うぅぅ……ああぁ」
「琴乃ちゃん!」
その声はさっきと打って変わって明るい声だったが、幼い子が喚くような泣き声。
様子がおかしい。息遣いにノイズのようなものが混じる。
「うぅぅ……、はぁ……はぁはぁ……絶対、間違ってる! こんなの……おかしいよ……オカシイおかしい!!!!」
「琴乃ちゃん! 落ち着いて、ゆっくり息を吸って」
「うぅああああ! はぁはぁ……」
苦しむ琴乃の息遣いが聞こえる。
「……ごめ――なさ――」
明らかに様子がおかしい。
普段とは全く別人のような――
その時、柚木の言葉が脳内に反芻する。
「親が言うには言動がちぐはぐというか、まるで別人みたいに思える時があると言っていたな。私は反抗期じゃないかと思うんだが」
これのどこが反抗期なんだ! 柚木のバカ!
「もうどうでも良い……。どうせ私なんか誰にも必要とされないし……」
また声色が変わっていた。
姉と比べられて、私なんかと言っていたあの頃の琴乃がフラッシュバックする。
「そんなことないよ。私は琴乃ちゃんの事、大切に思ってる。柚木にとっても、琴乃ちゃんは必要だよ」
琴乃に何かあったら……柚木がどうなるか想像したくもない。
「ううん。でも、悠馬と結ばれないなら、生きてたって意味ない。――意味なんて、ないの……」
だめだ。このままじゃ話にならない。
「琴乃ちゃん。今そっちに行くから、待ってて」
「え?」
琴乃の言葉を待たずに、私は通話を切った。
「羽海――」
「店長、私も朱璃と一緒に行ってきます」
私の言葉を待たずに、羽海が奥の店長に声をかけていた。
「ああ。気を付けてな」
店長はレコードを仕分けながら右手を上げて、行ってこいと手を振った。
「え……良いの?」
羽海は驚く私を通り越して、店のドアまで歩いていく。
ガチャリ、と古いドアが鳴る。
「私も、心配だもの」
淡い光が羽海の横顔を照らす。
ほんのり赤い頬、耳は真っ赤。
きっと光の加減だろう。
「ふふふっ」
「……なによ」
羽海が少しだけ眉を寄せる。
「ううん。ありがとう、羽海」
「お礼なんて――」
言い終わる前に、私は一歩近づいて、その手を取った。
ひんやりとした指先が、小さく震える。
「ちょ、ちょっと!」
「行こ! 急がないと!」

