第40話 / DIGGIN’THE SOUL

 Skylimスカイリム。
 スマートフォンに変わって世界中の生活を変えたARデバイス。
 柚木が勤める会社の看板商品だ。
 今や持っていない人はいないと言われているが、私は持っていない。

「相性診断アプリ?」
「そう。自分との相性を、AIが出してくれるのよ。恋愛とか、友達とか、進路とか……」
「占いみたいなやつ?」
「違う。Skylimに蓄積ちくせきされたパーソナルデータを基もとに診断される、もっと精度が高いものよ。だから、みんな使っているの」

 そういえば、高校生の時にみんながやっていたような気もする。
 誰々(だれだれ)と相性が良かったとか。咲と勇希ゆうきくんも相性診断良かったって話していた。

「そうなんだ……えっと琴乃ちゃん、大丈夫? なんかちょっと、変だよ?」

 私の言葉を無視して、琴乃は続ける。

「私も、悠馬ゆうまとの相性を診断してみたんだっ! ……そしたら、そしたらね……うぅぅ……ああぁ」
「琴乃ちゃん!」

 その声はさっきと打って変わって明るい声だったが、幼い子が喚わめくような泣き声。
 様子がおかしい。息遣いきづかいにノイズのようなものが混じる。

「うぅぅ……、はぁ……はぁはぁ……絶対、間違ってる! こんなの……おかしいよ……オカシイおかしい!!!!」
「琴乃ちゃん! 落ち着いて、ゆっくり息を吸って」
「うぅああああ! はぁはぁ……」

 苦しむ琴乃の息遣いが聞こえる。

「……ごめ――なさ――」

 明らかに様子がおかしい。
 普段とは全く別人のような――
 その時、柚木の言葉が脳内に反芻はんすうする。

「親が言うには言動がちぐはぐというか、まるで別人みたいに思える時があると言っていたな。私は反抗期じゃないかと思うんだが」

 これのどこが反抗期なんだ! 柚木のバカ!

「もうどうでも良い……。どうせ私なんか誰にも必要とされないし……」

 また声色が変わっていた。
 姉と比べられて、私なんかと言っていたあの頃の琴乃がフラッシュバックする。

「そんなことないよ。私は琴乃ちゃんの事、大切に思ってる。柚木にとっても、琴乃ちゃんは必要だよ」

 琴乃に何かあったら……柚木がどうなるか想像したくもない。

「ううん。でも、悠馬と結ばれないなら、生きてたって意味ない。――意味なんて、ないの……」

 だめだ。このままじゃ話にならない。

「琴乃ちゃん。今そっちに行くから、待ってて」
「え?」

 琴乃の言葉を待たずに、私は通話を切った。

「羽海――」
「店長、私も朱璃と一緒に行ってきます」

 私の言葉を待たずに、羽海が奥の店長に声をかけていた。

「ああ。気を付けてな」

 店長はレコードを仕分けながら右手を上げて、行ってこいと手を振った。

「え……良いの?」

 羽海は驚く私を通り越して、店のドアまで歩いていく。
 ガチャリ、と古いドアが鳴る。

「私も、心配だもの」

 淡い光が羽海の横顔を照らす。
 ほんのり赤い頬、耳は真っ赤。
 きっと光の加減だろう。

「ふふふっ」
「……なによ」

 羽海が少しだけ眉を寄せる。

「ううん。ありがとう、羽海」
「お礼なんて――」

 言い終わる前に、私は一歩近づいて、その手を取った。
 ひんやりとした指先が、小さく震える。

「ちょ、ちょっと!」
「行こ! 急がないと!」   

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この記事を書いた人

長野県松本市を拠点に活動する2人組の作家です。

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