一章~異声~
松本市にある、時代に取り残されたリユースショップ「ANIERA」
翌日、私は羽海に入荷した商品を仕分けながら、柚木からの相談について話をしていた。
「でね、私が琴乃ちゃんの話を聞く事になったの」
「そう……心配ね。私にも何かできることあったら言って」
「うん。ありがと」
柚木の両親はインテリアデザイナーで、よく参考にとANIERAの雑貨や骨董品なんかを買いに来てくれる。
琴乃も何度か一緒に来ていて、羽海とも話す仲になっていた。
「そういうわけだから、ちょっと電話してきてもいい?」
「ええ。あとこれだけだし、仕分けは任せてもらって大丈夫」
「ありがと、羽海」
私はスマホを取り出すと、琴乃ちゃんと表示された番号を押した。
何回かのベルのあと、聞きなじみのある声が聞こえてきた。よかった、でてくれた。
「朱璃ちゃんやっほー」
「もしもーし! 琴乃ちゃん、元気?」
「朱璃ちゃんから電話くれるなんてめずらしいね!」
電話越しに返ってきた声は、パッと弾けるように明るい。
柚木からの相談が嘘に思えるくらい、普段通りの声だった
「それで、どったの?」
「いや、どうしてるかなーって思ってさ。ほら、最近話せてなかったし?」
自然に、努めて明るい会話を心掛ける。
「いや、先月お店で会ったでしょ? 羽海ちゃんと誰が一番帽子が似合うか対決したじゃん」
あ、やばい。
「えっと……そうだっけ?」
「そうだよ! 普段自分がかぶらない帽子を被ってみようって朱璃ちゃんが言い出したんじゃん」
「あ……あ~ね?」
そういえば先月も会っていた。
「あ~ね? じゃないでしょ! もう忘れちゃったの? 朱璃ちゃんがバカでかいテンガロンハットなんか持ってきて、私の顔ほとんど見えなかったんだから」
あれは面白かった。オーバーサイズのテンガロンハットが琴乃の顔を覆って、ほぼ顎しか見えてなかった。
「ふふっ。でも朱璃ちゃんのつば広ハットも良かったな~。羽海ちゃんの一言、最高だった」
そうだ。私がつば広のハットを被って女優のポーズをしたら「完全に帽子に負けてる」って言われたんだった。あれがツボに入って、琴乃ちゃん笑い転げていたっけ。
「結局、羽海ちゃんのクロケットが一番似合ってたんだよね~」
「あれはずるい。てか、羽海は全部似合うのずるい」
結局、羽海が一番似合うで決着したんだ。
なんだか元気そうだし、珍しく柚木の勘違いだったのかもしれない。
「それで電話くれたのはうれしいけど、突然どしたの?」
「んーん。琴乃ちゃん、元気かなーって思って電話しただけだよ?」
「はぁ……まぁ良いけど。どうせお姉ちゃんでしょ?」
「んーと、なんのことかな?」
「朱璃ちゃん、ごまかすの下手すぎ」
バレバレだった。ここまで綺麗に見透かされるといっそ清々しい気持ちだ。
「あちゃーバレたか。ごめんね、騙すようなことして……柚木から電話があってね、その」
「……ふーん」
「でも、柚木に言われただけじゃないよ。あ、もちろん、柚木に聞いたから電話してるんだけど、そうじゃなくてね、私も心配だし、声も聞きたかったのも本当だよ? 羽海もきっと心配してるよ!」
羽海の方に視線を送ると、小さく首を縦に振っている。
「はいはい。分かってるって。お姉ちゃんも朱璃ちゃんも……心配しすぎだよ。私もいつまでも子供じゃないんだからね」
電話越しに拗ねた声が聞こえてくる。
「ごめんごめん。でもさ、なにかあった? その、学校とかで……」
――ぴたり。と、電話の向こうの空気が止まった。
さっきまで明るかった空気が、ひんやりとしてスッと引いていく。
「……琴乃ちゃん?」
電話ごしに粗い息遣いが聞こえてくる。
「……あなたは、きっと知らないだろうけど」
あなた? 声色も明らかに変わっている。
「Skylimって、相性診断アプリがあるのよ」

