第13話 / DIGGIN’ THE SOUL

二章~空虚くうきょ

「やっぱり……ごめん」

羽海はそう言い残し、RAMONEのドアから外に飛び出して行った。

「羽海!」

後を追って外に出る。
今度ばかりは放ってはおけない。
ANIERAの時とは違う。
唄のこともそう。明らかにおかしい。
階段を駆け下りていく羽海を追い越すために、私は迷わず飛び降りる。
そして、彼女の行く手に立ちはだかるように、正面に回り込んだ。

「ちょっとまってって!!」

そのまま勢いよくぶつかってしまい、二人して地面に倒れ込む。

「いつつ……」
「……ほっといてよ」

羽海は顔をそらしながら、小さくそう言った。

「やだ。ほっとけない」

私は、真っすぐ彼女を見つめながら、そう答えた。

「……私の唄、全然届かなかった」
「ううん、そんなことない」
「でも陌霊になった。私のせいで」
「それでも、私には羽海の唄がちゃんと聞こえてたよ」

その言葉に、羽海の肩がわずかに揺れる。
何かを言おうとして、けれど言葉にならず、羽海はそっと口を閉ざした。
そこにはきっと、言葉では届かない〝何か〟があるのだろう。
あのとき彼女は、たしかに唄おうとしてくれた。
けど――あんな結果になってしまって。
このままではもう二度と唄わなくなってしまうかもしれない。

……羽海の想いを放ってはおけない。

少し間をおいて、私は声のトーンを変える。

「ね! デートしない?」

その提案に、羽海が目を丸くする。
反応を待たずに、私は彼女の手を取った。

「ちょ、ちょっと……」

羽海は手を振り払おうとしたものの、すぐに諦めたように――

「……空気読めないって、よく言われない?」
「ぜーんぜんっ!」

――――――

「やっぱりショッピングだよね! イオンモール松本!!」
「そうね……」

羽海の元気が出そうなネタ……といえば。
数々の有名アパレルブランドのショップが立ち並ぶここしかない!
きっと気分転換になるはず。
久々のイオンモールは、変わっていなかった。
アパレルだけでなく、雑貨やデバイスを扱うショップが立ち並び、その間にはカフェが点在している。コーヒーや紅茶はもちろん、フレッシュジュースを看板メニューにしたカフェが多いのも、このエリアならではの特徴だ。
目の前のブランドショップに入ると店内のARが作動し、私たちの服が自動的にそのブランドの試着モードに切り替わる。
どんな服を着ていても、ARでフィッティングできる、最近リリースされたアプリ。
本来は自分のデバイス――Skylimスカイリムから好みのスタイルを選べるのだが、私たちは持っていない。
そのため、二人のパーソナルデータに合わせた一番ベーシックなシンプルデザインが適用されてしまう。

「あはは、ペアルックみたいになったね~!」
「そうだね……今ってこんなふうにフィッティングできるんだね」

冗談っぽく笑って見せるも、羽海はどこか上の空で、浮かない顔のまま。
どうやら空振りのよう……。
周囲を見回すと、ふとある看板が目に飛び込んできた。

「最近、アウトレットモールも新設されたんだよ! そっちも行ってみよっ!」

私は重そうな足取りの羽海の手を引いて、隣接されたアウトレットモールへ向かった。
あがたの森側の広大な駐車場があったエリア。
少し外れたその一角に新たなエリア「森庭」としてオープンしたのが約一年前。
すでにある晴庭はれにわ風庭かぜにわ空庭そらにわに加え、数十年ぶりに新設されたそこには、各ブランドやメーカーのアウトレットショップがずらりと並び、話題の人気スポットになっている。
特にエリアの中心はイベントスペースになっていて、その時々にステージや抽選会、物産展などが行われているらしい。

「ね、よくない? この辺りは結構掘り出し物とかあるかも」
「うん……いい感じ」

辺りをきょろきょろと見回す羽海。
もしかして少しテンションがあがってきてるのかも……?
と、様子をうかがっていると法被を着た女性が話しかけてきた。

「あれ? 朱璃じゃん!」
「えっ、美久みく! なにしてんの?」

そこにいたのは、高校時代の数少ない友人――美久だった。
来るのが久しぶりすぎて、美久がここで働いてるのもすっかり忘れていた。

「なにしてんのはこっちのセリフだよ。朱璃がここ来るなんて珍しいじゃん!」
「あはは、確かにね~」
「新しくできた友達を案内してたんだ~。こっちは羽海!」
「ども……白砥羽海です」

おずおずと小さく頭を下げる羽海。やっぱりちょっと人見知りみたい。

「お~! オシャレさんだね! 私は美久! よろしくねっ」

ピッと敬礼でもするように指先を額に当ててみせる美久。
この感じ、昔とまったく変わってない。

「ちょうどよかった! 今ね、一周年記念で大抽選会やってるんだけど……人が全然来なくてさ~。タダでいいから、ちょっと参加してくんない?」
「えっ、いいの? ほんとに?」
「いいのいいの。てか、朱璃……なんか当たりそうな気がするんだよね~」

と、美久はニヤッと悪戯っぽく笑った。

「それじゃ、せっかくだし……羽海、行ってみよっか!」
「う、うん……!」
「それじゃ~二名様、ごあんな~い♪」

美久に案内されるまま、私たちは賑やかな抽選会場へと向かった。
私の身長ほどもある巨大なガラポンが鎮座している。
今時珍しいタイプで、逆の意味で目を引いている……が、そのせいなのか人が集まっていないため、すぐに順番が回ってきた。

「羽海、一緒に回そ!」
「え、ええ……」

少しためらっている羽海の手を誘導し、レバーに手をかける。

「せーっのっ!」

勢いよく回したレバーは、見た目以上に軽く、少しバランスを崩しながらもガラガラと一回転。
ぐるりと回ったガラポンの抽選口から赤く大きな球がコロンと飛び出した。
サッカーボール大の鮮やかな朱色。
カランカランカラ〜ン!
美久が待ってましたとばかりに鐘を鳴らす。

「二等賞、大当たり~~~!!」
「えっ!?」

思わず声が揃う私たちは顔を見合わせる。

「二等は、ファミリー旅行券! Bコース! 北海道・沖縄・京都から選べるよ~!」

美久の声が会場中に響き渡ると、周囲の視線が一気に私たちに集まった。
あちこちから「すご〜い」「いいなあ」とささやく声が聞こえる。
……これは、うまく使われちゃったかもしれない。
ふと隣を見ると、浮かない表情の羽海。
まるで、賑やかな空気からひとりだけ取り残されているようだった。

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この記事を書いた人

長野県松本市を拠点に活動する2人組の作家です。

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