二章~亀裂~
会場はすでに大きな喧騒に包まれていた。
美久の話では出席者が二四〇人ほど。
一学年で三〇〇名ほどいたはずだから、そのうち八割が参加していることになる。
壁際にドリンクカウンターやビュッフェ形式で料理が並び、会場には円卓が等間隔に配置されていた。
華やかな立食パーティー。まだ大学生もいるだろうに、ずいぶん贅沢に見える。
同級生にホテルの関係者がいたらしく、格安で開催できたらしい。
受付を終えて合流した美久がそう話し、「ラッキーだね」という謎コメントとともに、グッジョブと親指を立てる咲。
そんなことを話しているうちに照明が落ち、開会の挨拶が始まった。
今回の発起人である元・生徒会長の進行で、学年主任だった先生が乾杯の音頭をとるべく話し始める。
早く乾杯がしたい同級生たちはすでに飽きがきて、ボソボソと話し始めていた。
話が卒業式の一件に移った辺りで、私たちはドリンクカウンターに向かった。
「えーと、烏龍茶」
「あ、私も」
私に続き、咲もソフトドリンクを注文する。
「あれ? 咲も?」
「うん。ちょっとねー」
「あ~~、ね……」
どう応えるべきか悩んでいると、シャンパンを受け取った美久が私と同じトーンで口を挟んできた。
「あれ? 朱璃も?」
「うん。ちょっとねー」
「マネすんなー!」
咲がすかさずツッコミを入れてくる。
「ハッハッハッ。で、実際は?」
「ちょっとね。今日はやめとく」
「そっか。まぁそういう時もあるよね」
それ以上深入りしてこない美久。
こういう絶妙な距離感は相変わらず尊敬する。
ちょうど私と咲が烏龍茶を受け取ったところで、先生の乾杯の音頭となった。
「かんぱーい」
一斉にグラスが掲げられる。
会場がより一層にぎやかになっていく。
私も咲も周りのクラスメイトとグラスをかわし、烏龍茶を流し込んだ。
でも、みんなの笑顔にどこかぎこちなさが残っているような気がする。
――よし。
「さぁ〜、朱璃ちゃん、今日は遠慮なく食べちゃいますよー!」
空気を変えようと、ちょっと大きめの声でそう宣言する。
「ずるい! 私も行くー!」
美久と咲が笑いながら追いかけてきた。
ビュッフェエリアには、色とりどりの料理がずらりと並んでいる。
山賊焼、馬刺し、小さなグラスに盛り付けられた山菜など、信州ならではの品々。
松本に住んでいる私もしばらく口にしていない気がする。
「くぅ〜〜、この山賊焼き、やば……! ほい、しくて」
「ほんとだっ。これは食べ過ぎちゃうかも~!」
私と咲が頬張っていると、美久が茶々を入れてきた。
「美味しそうですね、ここで食レポお願いします」
唐突なフリに喋れないでいる私に、咲が得意の一発芸を披露する。
「山賊焼きはですね、カリッとした衣の下に、この大きさならではのじゅわっと染み出すタレと肉汁がたまりません。大きい唐揚げとどう違うのかはいまだによく分かってないけど、そんなことどうでも良くなるほどの美味しさですね」
高校の頃から変わらない芸。さすが。
私もなにか言わなければ。
「やっぱり山賊焼って最高~!」
「咲、九十四点! 朱璃、三点!」
「ちょっと! 点数低すぎ!」
わざとらしくズコーっとコケる私。
得意げな表情を浮かべる咲。
そういえば、お昼休みも毎回こんなふうだったっけ。
点数の低さに「ちょっと!」と抗議する私。
得意げに笑う咲。爆笑する美久。その姿に、柚木の笑い声まで脳裏に蘇った。
「あれ、優希くんじゃない?」
懐かしさに浸っていると、こちらの様子を伺っている男性が目に入った。
「ほんとだね。あ、咲」
「あ、そっか。朱璃、美久、ごめん。私ちょっと行ってくるね」
「ん? いってらっしゃーい」
「お熱い二人だね~。いってきな~」
美久の冷やかしに「もぉーっ」と言い残し、咲は優希くんの元へと駆けていった。
「急にどうしたんだろ?」
「さぁ~、これからのお楽しみだね♪」
「???」
ニヤニヤ顔を浮かべる美久。
何かを隠しているのは明らか。ただこの感じだと絶対に口を割らないな……。
私は諦めて、新しく追加された馬刺しに箸を伸ばした。
――うん、やっぱり最高!

