第29話 / DIGGIN’THE SOUL

 ステージ上では各担任の先生の挨拶が終わり、有志による余興よきょうが始まった。
 主催の生徒会長が来場者アンケートの結果を発表する。
 大学進学八割、就職二割、その他一割。既婚率きこんりつはわずか2%。
 スクリーンに映るグラフに、会場からは「ほぉ〜」とか「誰だっ」とおふざけ調子の声が上がった。
 続いて舞台に現れたのは芸人を目指している二人組。
 在学中からお笑いを目指していた彼らはまだ夢を追いかけているらしい。
 披露した漫才ステージは相変わらずややウケに終わっていた。
 他にも起業したという人のプレゼンや今の学校特集などが行われている。

「咲、遅いね~」
「そうだね」

 若干飽きてきたので話しかけると、彼女は気にする様子もなくグラスを傾けていた。
 私ももう少し食べようか……とお腹をさする。
 咲といい羽海といい、これだけ食べて体型を維持しているのはどういうことだろう……と考えていると、ステージが暗転した。
 生徒会長の声が響く。

「ここで! 嬉しい発表です!」
「おおっ!」

 わざとらしい歓声が上がる。

「なんと卒業からの数年、ゴールインしたカップルがいらっしゃいます!」

 その言葉に、ピューイッと指笛ゆびぶえがいくつか響き渡る。
 この文化はいつまでも変わらないらしい。

「まさか……」

 と、美久を見ると、さっき以上のしたり顔。やられた。

「お二人は遠慮していたのですが、なんとしてもお祝いさせてほしいとお願いしました。皆さん、温かい拍手でお迎えください!」

 スポットライトがステージの上手を照らす。
 そこに現れたのは腕を組んだ咲と優希くんの姿だった。

「咲さんと優希さんです!」

 会場がざわめき、二人に拍手が降り注ぐ。
 優希くんがマイクを取り、緊張した声で話し始める。

「今日は同窓会の大切な日に、このような場をいただきました。本当に私事わたくしごとではありますが……」

 深呼吸をひとつ置いてから、言葉を続けた。

「私と咲は、六月に結婚することになりました」

 おおーっ、と歓声と冷やかしが飛び交う。
 幸せになれよー、とか、羨ましいぞー! といった声が響く。
 そういえば、小動物を思わせる咲にそれなりにファンがいたのを思い出す。
 優希くんもバンドとかやっていたし……。
 頭を下げる二人。
 そして顔を上げた二人の目尻には涙が浮かんでいた。
 その様子に思わずこみ上げてくる涙を拭う。

「……美久が仕掛けたの?」

 咲や優希くんが自分から言うことはないだろう。
 運営に関わっていたというのだから、彼女が仕掛け人で間違いない。

「うん。今どきこんなことってないからさっ。驚いたでしょ?」

 涙声に混じる誇らしげな響き。
 私は苦笑しながら「やられたなー」と答えた。
 拍手の中、祝福される二人の姿が滲む。

 ――その時だった。
 バリッ、と乾いた音が空気を裂く。
 ステージ上の照明が一斉に落ちる。
 頭上から軋むような不穏な音。
 ステージを彩っていた電飾が崩れ落ちてきた。

「キャッ!」
「危ない!」

 あちこちで悲鳴と叫び声が上がり、椅子のきしむ音とグラスが倒れる音が重なる。
 私は反射的に駆け出していた。

「咲っ!」

 人混みをかき分け、ステージの前へ飛び出す。
 そこには、小型の電飾が落下した場所で、倒れ込む二人の姿。
 優希くんが咲をかばうように抱き寄せ、その身をかばっていた。

「大丈夫!?」

 息を呑んで駆け寄る。
 二人は衣服についた埃を払いながら、ゆっくりと立ち上がった。

「いてて……咲、大丈夫?」
「うん……なんとか」

 どうやら間一髪で避けられたらしい。
 大きな怪我はないらしく、胸を撫で下ろす。
 ホテルスタッフが慌ただしく駆けつけ、事態を確認して二人を支えた。

「お怪我は大丈夫ですか!? 念のため医務室へ……」

 ホテルスタッフに誘導され、咲と優希くんは会場を後にした。

「また……なんで、こんな……」

 騒然とする空気の中、会場をあとにする優希くんの言葉が耳に残っていた。

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この記事を書いた人

長野県松本市を拠点に活動する2人組の作家です。

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