第33話 / DIGGIN’THE SOUL

 団地裏の広場に着地した瞬間、髪飾りが手を離れ、鋭い光を放ちながら変容へんよう を始める。
 黒髪と赤いひもうずを巻くように空を舞い、帯のようにうねりながら、やがて人の形を成していった。

「……うぅ、あ、ああ……」

 うめき声とともに姿を現したのは、黒髪の付喪神つくもがみ

「人型、か。色々話したかったけど……淑女しゅくじょたしなみが、ちょっと足りないんじゃない?」

 目を逸らさず構える。

「咲と優希くんは、私の大切な友達。……手は出さないで」
「う、ああああああ――ッ!」

 その叫び声とともに、無数の黒髪が触手しょくしゅのようにうごめき、襲いかかってきた。
 かわす。さばく。しかし、数があまりに多い。
 左足をからめ取られ、空中に引き上げられる。

「っ、しまった……!」

 私は体をひねり、右足で黒髪の根元をいた。
 拘束が解けると同時に、反動で体が宙に浮く。
 地面に叩きつけられる――寸前、腰をひねって体勢を立て直し、ぎりぎりで着地する。

「あっぶな……スカートだったらどうすんの!

 思わず口をついて出た軽口に、自分で苦笑いする。
 軽くジャンプして足裏の感覚を確かめ、姿勢を整えた。

「いくよっ!」

 一気に駆け出し、背後から回し蹴りを放つ。
 直撃の寸前、その黒髪が反応し、私の右足を絡め取った。
 そして再びそのまま地面へ叩きつけようとする。

「……ッ!」

 拘束を断ち切ろうと右手で手刀を構えた瞬間、その髪が裂けるように二つに分かれ、蛇のように伸びて手首に巻き付いてきた。

「……ぐっ……! 何本あるのよ、反則じゃん……」

 さらに宙に持ち上げられた、その時――

「朱璃!!」

 羽海の声。
 咲の部屋から駆け出してきたのか、肩で息をしながらこちらを見ている。
 一瞬、付喪神の意識が羽海へれた。
 ――今!
 両足で黒髪の根元を挟み込み、体を引き寄せる。

「はっ!」

 その反動で頭部へかかとを叩きこむ。
 締め付けが緩んだ隙に体をひねって抜け出し、大きく距離を取った。

「羽海、ナイス! でも危ないから前に出ないで!」
「……まず一人で飛び出したことを謝りなさいよ」

 羽海の声に、私は少し笑って答えた。
 自分で思っていたよりも頭に血が上っていたらしい。

「ごめんごめん。ここからはちゃんとやる」

 呼吸を整え、意識を集中させる。
 その時、羽海の唄が周囲を包んだ。

~~~♪

 羽海、サンキュ。と、心の中で呟く。
 これで外に悪影響を及ぼす心配も、力が撒き散らされることもない。

「……終わらせよっかね」

 地を蹴る。
 一気に踏み込み、拳を突き出す。

 清浄しょうじょうもっ
 九十九つくも汚穢けがれはらわん。

 くれないの光をまとった拳を、真正面から怪異かいいの顔面に叩き込む。

「――ッ!!」

 悲鳴のような音とともに、黒髪が崩れ、光がはじけ飛ぶ。
 その身体はほどけるように消え、残ったのはただ――
 カラン。
 乾いた音を立てて転がる髪飾り。

「……とりあえず、大人しくなったかな」

 私は近づき、髪飾りを拾い上げる。
 背後から足音。
 振り向くと、羽海が肩で息をしながら立っていた。

「……大丈夫そうね」
「うん、羽海、サンキュッ」
「なんとかなって、よかったわ」

 ぶっきらぼうな返事。
 羽海のそういうとこ、嫌いじゃないなって思うよ。

「朱璃〜!」

 どうやら目を覚ましたらしい。
 ベランダから咲と優希くん、それに咲のお母さんが覗いていた。
 心配そうに覗き込む顔に向け、私は大きく手を振った。
 想いがあふれ出した髪飾りは、静けさを取り戻していた。
 かすかに揺れる光が、まだ何かを訴えかけているようだった。

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この記事を書いた人

長野県松本市を拠点に活動する2人組の作家です。

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