第38話 / DIGGIN’THE SOUL

 プロローグ

 手の中で、古びたスマートフォンが鳴った。

「んん……電話?」

 仕事から帰ってベッドにダイブしたのがいつだったか。
 少しだけと思って、気付いたら眠ってしまっていた。
 私は眠い目をこすりながら、鳴り響くスマートフォンを指でなぞった。

「ふわぁ~もひもひ?」
「やぁやぁ朱璃あかりくん。その声は寝起きだね?」

 起き抜けの耳に飛び込んできたのは、懐かしい旧友の声だった。

「おはよう柚木ゆずき~。どうしたの?」

 欠伸あくび交じりの声が、そのまま口からこぼれる。

「朱璃くんの声が聞きたくなってね」
「はいはい。それで、ほんとは?」
「ははは。相変わらず手厳しい。実は朱璃くんに頼みがあってね」

 そういう時にしか電話をかけてこないくせによく言う。

「っと、その前に……さきの結婚式の件も謝りたかったんだ」

 彼女にしては珍しく、寂しそうな声。
 私と美久みく、そして咲と柚木。いつも高校でつるんでいた4人。
 せっかくの咲の結婚式に、柚木は来られなかった。

「仕事でしょ? 忙しいんだよね」
「……どうしても抜けられなかったんだ。すまないな」
「知ってる。昔からそういうとこ真面目だよね。咲も分かってると思うよ」

 彼女のこんな殊勝しゅしょうな態度に少し驚く。
 会社に入って色々変わったのかもしれない。

「咲、綺麗だったよ」
「そうか……」
「美久がたくさん写真撮ってたから、あとで送ってもらいなよ」
「そうだな……」
「も~元気だしなって! またいつでも会えるよ」

 がらにもなく落ち込んでる柚木に、いつも通り笑って返事をした。
 柚木は今、国内最大のテック企業「Latoreレイトア Wallaceウォレス.inc」で働いている。便利で快適なライフスタイルの提供を掲げ、ARデバイス「Skylimスカイリム」を展開する大企業だ。
 まだ大学四年生だが、単位は一年で取り終えてしまって、今は月に何回か研究室を使わせてもらってる程度らしい。

「それで、頼みって何?」
「ああ。今日は琴乃ことのの事で頼みがあってね」
「琴乃ちゃん? どうかしたの?」

 柚木琴乃ゆずきことの。柚木家の次女で、よくお店にも顔を出してくれている。
 知的で冷静な柚木とは正反対な、いつも明るくて、笑顔が似合う女の子だ。
 高校時代はみんなの妹みたいになっていたほど。美久なんか「私の天使―」とか言って可愛がっていたっけ。

「最近、学校に行っていないらしくてな」
「え?」

 突然の告白に、思考が一瞬止まる。

「風邪とか……じゃないよね?」
「まぁ学校の授業は退屈だからな。私は行かなくても良いだろうと思っているのだが、親がやけに心配していてな」
「そりゃそうでしょ……私も心配だよ」
「琴乃は私の電話には出ないしな。親が言うには言動がちぐはぐというか、まるで別人みたいに思える時があるらしい。私は反抗期かなんかじゃないかと思うんだが」

 淡々と続く柚木の分析に頭を抱える。柚木はコト人の気持ちとかの話になると誰よりも疎い。

「柚木、さすがに反抗期なら両親が分かると思うよ」
「あぁ。親にも全く同じことを言われたよ。まぁ私としてはあまり問題視していないんだがね。琴乃の面倒は一生見るつもりでいるからな。家でずっと遊んで暮らしてもらって構わない。私が稼げば良いだけの話だしな。結婚だってさせ――」
「ちょっストップ! ストップ! 分かった! もう分かったから!」

 そうだった。それでいて、重度のシスコンなのが余計にたちが悪い。

「そういうことなら、琴乃ちゃんと話してみるよ」
「そうか。話が早くて助かる」

 このまま柚木に任せておくのもヤバそうだし。
 かといって、私も何かを探るなんて得意じゃないんだよなぁ。

「んー、あのさ、ほかに聞いてることとかって―」
「それじゃ、任せる。頼んだよ朱璃くん」

 プツン。ツーツーツー。
 そして、通話が切られた。

「えぇ……」

 本当に相変わらずだなぁ。
 時計を見ると、時刻は一時を回っていた。なんて時間に電話してきてるんだ……。
 あの姉がいるにしては、琴乃はよく出来た子だった。
 そんな彼女が学校に行っていない。しかも柚木からの電話……妹に関して勘は鋭い。
 まぁ感想はまったくあてにならないけど。
 何かあったとみて間違いないだろう。
 琴乃のことは羽海も知っているし、相談してから連絡を取ってみよう。
 私はスマホを充電台に置いて、再びベッドへダイブした。  

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この記事を書いた人

長野県松本市を拠点に活動する2人組の作家です。

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