第37話 / DIGGIN’THE SOUL

 エピローグ

「ねぇ羽海〜。どっちが似合うと思う?」
「……ピンクじゃない? 朱璃、青はちょっと顔に負けてる」
「ひどっ! どっちも似合ってるでしょ〜!」
「……それならいちいち聞かないでよ」
「お前ら……、一応もう開店してるんだぞ」 

 店長が腕を組みながら、半分呆れた顔でぼやいた。

「え~。まぁまだ誰もいないんだからいいじゃん」
「そうそう。大丈夫だよ」

 珍しく同意してくる羽海。鼻歌混じりに上機嫌な様子だ。

「……じゃあ今日は、羽海に免じてピンクでいくか」
「何それ。最初からそっちが正解だったじゃない」
「ありがと、羽海」
「べつに」
「じゃあ店長、行ってくるね〜」

 軽く手を振って、私たちはANIERAを後にした。

 ―――

 咲と優希くんの結婚式。
 会場は、国の登録有形文化財とうろくゆうけいぶんかざいにもなっているアルモニービアン。
 あの一件の後、羽海は咲の家に何度か様子を見に行っていた。
 その流れで「ぜひ」と招待され、今日に至る。
 重厚な会場の門をくぐると、すぐに見覚えのある姿が目に入った。

「美久〜!」

 思わず手を振ると、美久がこちらに気づいて笑顔を浮かべた。

「お、朱璃、今日はちゃんとオシャレしてきたな~!」
「美久こそ! ちゃんとしてるじゃん!」
「おいおい、私はいつもだろ~?」

 美久は私の隣にいる、羽海にも気づき、声をかけた。

「羽海ちゃん、やっほ。元気してた~?」

 そのフレンドリーさに怖気づいたのか、羽海が半歩下がったのが分かった。

「……はい。美久さん、ご無沙汰してます」
「もう咲から話聞いたよ~、こうしていられるのだって、朱璃と……何より羽海ちゃんのおかげだって」

 美久節全開で距離を詰める彼女に、慌てて逃げようとしたがえなく捕まる羽海。

「い、いえそんな……」
「はいはい、今日は精一杯お祝いしよっ! 練習練習! おめでとう~!」
「は、はい。おめでとうございます」
「堅い堅い。おめでと~!!」
「お、おめでっとう~!」

 美久のペースに巻き込まれ、なぜか小さく握った拳を突き上げていう羽海。
 あまりの状況に思わず吹き出してしまった。
 こういう美久だから仲良くなれたんだっけ……。
 そんな事を考えていると、美久が思い出したように私に声をかけた。

「そういえば、柚木は?」
「それがね……来られなかったみたい」
「うそ、今日こそ会えると思ってたのに……」
「本人、めっちゃ悔しがってたよ。なんかどうしても行けないって」
「悔しがってるの、なんか想像できるなぁ。よしあの子の分までお祝いしよっ!」

 受付を済ませ、美久のSkylimスカイリムを頼りに私たちは席についた。
 最近では結婚式の受付はオートメーション化が進んでいるらしい。
 ちなみに同窓会で美久が受付をやっていたのは趣味だったそうだ。
 その話を聞いて少し羽海が引いていたのを私は見逃さなかった。
 会場の照明がふっと落ちて、アナウンスが流れた。

「これより、新郎新婦の入場です。皆さま、拍手でお迎えください」

 ドアが開き、光の中から現れたのは、真っ白なドレスに身を包んだ咲と、緊張で全身が硬直させながらも凛々しい優希くんの姿だった。

「咲、めちゃくちゃ綺麗……」
「優希くん、顔、引きつりすぎでしょ」

 会場全体が温かな拍手に包まれる中、二人はゆっくりと歩みを進める。
 自然と手が拍手を送っていた。

 そのあとの披露宴は、華やかで、穏やかな時間が流れていた。
 余興には同窓会にも出ていたお笑い芸人を目指しているという同級生コンビが出演。
 優希くんの友達だったそうで、爆笑の代わりに場を和やかに沸かせていた。
 そんな中ずっと、咲がテーブルに運ばれてくる料理を気にしているのが目に止まった。
 明らかに料理を我慢してる。
 結婚式って新婦は全然食べられないって本当なんだな……と思った矢先。
 テーブルクロスの影に、こっそり隠したのを私は見逃さなかった。
 どうやら気づいたのは私だけじゃなかったらしい。
 それを見つけたスタッフが咲と何やら話していた。
 写真を撮りに行ったついでに聞くと「おりに包んでもらえた」と喜んでいた。
 席に戻り美久と羽海にそのことを話すと美久は「何をやってるのあの子……」と呆れていた。
 羽海が「なるほど、そんなことが……」とつぶやいていたのは聞かなかったことにした。

 披露宴が終わり、参列者たちが新郎新婦に見送られ帰っていく。
 私たちが最後になった。
 美久、羽海とともに出口へ向かった。

「咲〜!」
「朱璃! 美久! それに羽海ちゃんも、来てくれてありがとう」
「優希くんも、本当におめでとうございます」
「ありがとう。やっと今日、この日を迎えられました」

 二人が見せた笑顔は、眩しいほど幸せに満ちていた。

「朱璃、羽海ちゃん。ありがとね。二人がいなかったら私……」
「あぁ、ね! ほんと羽海のおかげだよ、ありがとう」

 その様子に慌てて羽海に振ると、彼女はふふっと笑顔を浮かべた。

「二人が……それにお母さんも、本当におめでとうございます」
「あ、ありがとう。ほんとに……」
「それじゃ、私たちはカラオケにいくから、二人も終わったら顔出してね!」

 今日こそ、宇多田を歌ってやるぞー!と、ごまかし叫ぶ。

「うん、わかった! じゃああとでね!」

 幸せそうな二人の見送りで外に出ようとした時、咲に声をかけられ私は立ち止まった。

「朱璃……あの……朱璃って……」
「ん?」

 私の手を握る咲。

「ううん、なんでもない。ありがとう」

 だから羽海のおかげだって。そう言いかけてやめた。

「うん。それじゃ、また後で! ほんとおめでと!」
「朱璃〜! 置いてっちゃうよ〜」。
「まってー! 今行く!」

 美久の呼ぶ声に駆け寄る。

「咲と何話してたの?」

 追いつくと美久があっけらかんと聞いてきた。
 こういう時に限って何も思いつかない。

「え、ん? 何も? ただおめでとって話しただけだよ」
「なーんか、怪しいな~」

 ニマニマした美久の視線から逃げるように先を歩いていた羽海の腕に飛びついた。

「ほら、羽海もカラオケ行くよ! 一緒に歌おー!」
「え? 私も?」
「えっ? 行かないの!? なんで?」
「だって、ほら、朱璃の……その、同級生の、友達の……で、だから……」

 視線をそらしながらごにょごにょする羽海。
 なるほど、美久も咲も最近会ったばかりだし、遠慮してるんだな。

「羽海も、友達なんだから。ほらいこっ」
「……う、うん!」

 羽海の手を取り、駆け出す。
 追いかけてくる美久が、「まぁいっか」と珍しく根負けしたように息をついていたのを見て、わたしは少し安心した。

「美久。羽海、めっちゃ歌上手いんだよ! なんかリクエストしよっ!」
「おっ、いいね。何がいいかな?」

 羽海がゲッと驚いた顔をした。
 その様子に美久がいたずらっ子モードを発動した。よし。

「咲たちが来るタイミングで、ウェディングソングなんてどうかな?」

 その美久の提案に、逃げ場を失ったと気づいた羽海。
 私をにらんできていたのを無視して美久に加勢することにした。

「そうだね~、それじゃ~」
「ちょっと、朱璃。私が知ってる曲からにして」
「お、羽海、ノリ気じゃん。まずは羽海セレクトの紹介だ!」
「う……しまった」
「歌お~!」
「お~!」

 私たちは学生の頃に戻ったように、夕暮れに染まる石畳いしだたみを駆け出していた。

 想いがすれ違って、誰かを縛ってしまうこともある。
 でもきっと、逃げずに向き合い続けることができれば、そのほつれは、少しずつほどけていく。
 いつかこんな日が来るのだろうか。
 誰かと心を重ねて、未来を信じられる日が。
 雲ひとつない青空を見上げながらそう思った。

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この記事を書いた人

長野県松本市を拠点に活動する2人組の作家です。

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