第22話 / DIGGIN’THE SOUL

 五章~還舎かんしゃ~

「そうか。それにしてもまさか二人でなんてな……よくやったよ」

 店長がコーヒーを片手にそう言った。
 すでに日が暮れかかっている。
 あの後私たちは肩を貸し合い、なんとかANIERAに辿り着き、事の顛末てんまつを報告した。
 疲れ切っていたせいか、私たちはそのまま店のソファに倒れ込むように寝てしまった。
 店長が諸々もろもろの後処理を終えたのは翌日の朝だったらしい。
 私たちは昼過ぎに起きたところを店長に捕まり、詳細な報告書を仕上げていた。
 ちなみに起きてすぐにシャワーを借りたので、あしからず。

「羽海が唄ってくれて、なんとかなったんだ。ねー、羽海」
「べつに……朱璃が助けてくれたから。もう怪我、大丈夫なの?」
「うん、全然平気だよ、このくらい」
「そう……よかった」

 そう言って髪をいじる羽海。何かを誤魔化しているようだ。
 店長はカップを置き、真顔で言った。

「あとはそうだな、準一級だったから、来週にでも〝清跋せいばつの儀ぎ〟を行うはずだったんだが」
「あ、そっか。あの規模ならそうだよね」

 第二級以上の陌霊現象は、残滓ざんしが周辺に強い影響を与える可能性がある。
 〝清祓の儀〟は複数の祈祷師が集まり、現象のあった周辺全域に封印を施ほどこす儀式。
 通常は、現場に携わった祈祷師が中心となって執とり行われる。
 店長が朝までかかったのはこの手配のせいもあったのだろう。

「あれ? じゃあ今回は……」

 今回、封印したのは私と羽海。
 なんならその殆どを担ったのは羽海だ。
 でも、唄の巫女が秘匿されているなら、表立って行う事はできないかもしれない。

「ああ、それなんだがな……」

 店長は言いにくそうに頭を掻いた。珍しい。

「今回の封印が結構特殊なことになっていてな。もうほとんど〝奉還ほうかん〟に入っているんだ」
「え?」
「は?」

 店長の言葉に顔を見合わせる。

「だから行うのは〝清祓の儀〟ではなく〝奉還〟のほうが良さそうなんだ。なんなら祈祷師を手配しなくていい分、そのほうが都合がいい」
「奉還?」

 あまり耳馴染みのしない言葉に思わず聞き返す。

「ああ、唄の巫女によって、付喪神や陌霊を常世とこよに還かえすことをそう云うんだ。その力は祈祷師とは一線を画かくしている。それゆえにその存在も秘匿されているんだよ」
「なるほど……というかあの時もうほとんど奉還しかかってたんだ! すごいじゃん!」
「だからな、今度また唄う必要はあるんだが……」
「そっか、それなら……! 羽海、唄ってくれる?」

 羽海を見つめ言葉をかけると、彼女は頬を赤らめ、そっと視線を外した。

「う、うん。もう大丈夫。私、やるよ」

 少し恥ずかしそうに頷く羽海。
 その返事に店長は不自然な笑顔を浮かべた。

「そうか、そうか。やってくれるか。それなら安心だ」
「店長、なにか隠してる?」

 私の言葉に驚いたのか、店長は一瞬だけ目をそらす。
 その視線の先を追うと同時に、とぼけたように店長は答えた。

「いや今回な、あれだけの規模だ。いつもみたいに深志神社ふかしじんじゃでやるわけにもいかなくてな」
「あ、なるほど」
「え?」

 そうか、そういうこと、と納得した。
 一瞬そらした視線の先のその答えがあった。
 一方、羽海はまだ状況を掴めていないようだった。それなら話は早い。

「あがたの森全域に対応しなくてはならないからな。でも、その規模の儀式はあまりに目立ちすぎる。しかしちょうど今週末にイベントがあってな」
「なるほど、それに合わせてやれば、不審にも思われないし、ちょうどいいね」
「え? え?」

 羽海をよそに話を進めていく。
 店長が取り出したのは一枚のチラシ。
 あがたの森音楽祭、そしてまさに文化会館で行われるステージだった。
 そしてそこには、RAMONEのマスターが組んでいるバンドが出演する。

「羽海がコレに出演して、唄えばいいんだね」
「え? いやちょっとまって」

 慌てふためく羽海をよそに、わたしと店長はトントン拍子に話を進めていく。

「そうだな、ちょうどRAMONEが組んでいるバンドが出る」
「え? どういうこと……?」
「いいね~! 昔ながらのR&B、めっちゃかっこいいんだよね~!」
「ああ、唄の巫女の想いが唄にのれば、どんな唄でも良いしな。ちょうど羽海はR&Bが好きだったよな」
「いやいやいや、ちょっとまって! 普通に明日にでも行って唄えばいいじゃん!」

 やっと事情を飲み込んだ羽海は、慌てて両手を振って拒絶する。
 だが、私も店長も引き下がる気はない。

「え~だってさっきはやるって言ってくれてたのに~。店長だって聞いたよね?」
「ああ、そう言ってたな」
「だって、それは……その、そんな話だなんて思わなかったし……」

 顔を真赤にしながらなんとか逃げようとする羽海。
 私はパタパタと振る手を握って、彼女を見つめた。

「羽海に唄ってほしいの。あの子たちのためにも。お願い」
「う…………」

 羽海が唄うことにまだ迷いがあるのは知っている。
 それでもあの日、たしかに彼女は乗り越えていた。
 それにあの陌霊と付喪神のことを考えると必要なことでもあった。

「わ、わかった。やるよ」
「やった~!」
「なにもそんなに喜ばなくても」

 頬を染めて言う羽海に、こみ上げてくる笑みを抑え切れず、言う。

「え~~、だって羽海が唄うの、好きなんだもん~」
「もう……」

 そんなやり取りに店長はフッと息を吐いたが、何かを思い出したように口を開いた。

「そういえばお前たち、RAMONEの依頼は大丈夫だったのか?」
「え……」
「あ……」
「えーと……ちょっと私、用事思い出したので帰ります」
「わ、私も――」

 店長は深くため息をつき、頭を抱えた。
 でも、私は見逃さなかった。
 その口元が、ほんの少し笑っていたことを。

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この記事を書いた人

長野県松本市を拠点に活動する2人組の作家です。

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